NHK「美の壺(びのつぼ)」は普段使いの器から家具、着物、料理、建築に至るまで、衣食住、人の暮らしを彩ってきた美のアイテムを解説してくれる番組。紹介されたものは何?場所はどこ?出演は誰?どこで買える?と興味津々。
そんな気になる「美の壺・美術の鑑賞マニュアル」を詳しく調べてみました。最後に番組内の音楽もまとめてあります。
美の壺「スペシャル レトロ建築」
出演は俳優の 草刈正雄(くさかり まさお)さん、ナレーション(語り)は女優の 木村多江(きむら たえ)さん、ゲストは建設会社 営業 役の俳優 六角精児(ろっかく せいじ)さん、女優の 内田有紀(うちだ ゆき)さんです。
最新エピソード 美の壺 File 622「炎」 もどうぞ併せてご覧下さい。
BSプレミアム(2023年11月30日まで。2023年12月1日から NHK BS(BS101チャンネル) へ移動)
初回放送:2021年5月21日(金)19:30~21:00
再放送 :2021年5月30日(日)14:00〜、2022年6月18日(土)14:59〜
2023年4月25日(火)15:07〜
BS4K(2023年12月1日から BSプレミアム4K へ名称変更)
先行放送:2021年3月26日(金)10:00〜11:30
再放送 :2021年5月21日(金)19:30~、2022年6月18日(土)14:59〜
U-NEXT でNHKの動画配信サービス NHKオンデマンド を視聴可能。虎に翼・らんまん・なつぞら などの朝ドラや 光る君へ・鎌倉殿の13人・真田丸 などの大河ドラマ、探偵ロマンス・正直不動産 などの名作ドラマ、ファミリーヒストリー「草刈正雄」を一気見できます。U-NEXTは初回31日間無料トライアル。NHKオンデマンド は別料金ですが、もらえる600ポイントで購入できます。PR
美の壺 フランク・ロイド・ライト はこちらをどうぞ!
美の壺 2024年度(2024年4月〜2025年3月)バックナンバー はこちらをどうぞ!
美の壺 スペシャル レトロ建築 内容
▽レトロ建築の大ファン・内田有紀さんが、伯爵の旧邸宅で“世界旅行”
▽人気アニメ映画「君の名は。」の背景美術を手がけたポーランド人アーティストが世界に発信する「昭和レトロ商店」。制作現場に密着!
▽フランク・ロイド・ライトがデザインした「テラコッタ」の誕生秘話
▽建築家・安藤忠雄さんによる、古い建築を未来に残す大胆なデザイン!
▽木村多江さんのレトロ探訪
▽一人三役!草刈正雄×六角精児のタワマン論争?!
プロローグ
草刈さんを訪ねてきたのは建設会社の営業。50階建てのタワーマンション建設のため土地を売って欲しいと言われています。
草刈さんは今回は1人3役。おじいさんや割烹着姿のおばあさん役にも挑戦。
美の壺 内田有紀のレトロ建築探訪
内田有紀さん / 女優 / レトロ建築ファン
女優の 内田有紀(うちだ ゆき)さんは1975年東京都・広尾生まれ。中学2年生からモデル活動を始め、1992年に女優デビュー。2002年に俳優の吉岡秀隆とさんとの結婚を機に芸能界から引退されましたが2005年の離婚を経て芸能界に復帰。以降はテレビ朝日「ドクターX」などテレビ・映画・舞台と幅広く活躍されています。
NHKでは大河ドラマ「軍師官兵衛」「西郷どん」や連続テレビ小説「まんぷく」への出演でおなじみ。
実は内田有紀さんはレトロ建築ファン。趣味はレトロ建築巡り。休日はもちろん地方でドラマ撮影をするときもご当地のレトロ建築を巡るというマニア。時間を見つけては明治から昭和初期のモダン建築を見て回り、これまで鑑賞してきたレトロ建築は60を超えます。
紹介されていたプライベート写真のクレジットは「©️10BEANS」となっていました。10BEANSは柏原崇さんがクリエイターとして活動するときの名義です。
内田さんは2021年4月24日放送のテレビ東京「新美の巨人たち」の「大隈記念講堂」の回にも出演し、建築の魅力をレポートしていました。
美の壺では約20年ぶりに「旧小笠原邸」へ。
名前 | 内田 有紀(うちだ ゆき) |
WEB | http://webburning.com/uchida-yuki/ |
旧 小笠原伯爵邸 / 伯爵の旧邸宅
女優の 内田有紀(うちだ ゆき)さんが訪れたのは 東京新宿区 の 旧 小笠原伯爵邸(おがさわらはくしゃくてい)。
礼法の宗家で有名な小笠原家第30代当主で旧小倉藩藩主の伯爵 小笠原長幹(おがさわら ながよし)の本邸として昭和2年(1927年)に竣工。敷地は江戸時代の小倉藩下屋敷跡地。設計者はジョサイア・コンドルの弟子の 曽禰達蔵(そね たつぞう)と 中條精一郎(ちゅうじょう せいいちろう)。
邸宅は当時アメリカ西海岸で流行していた スパニッシュ様式 で鉄筋コンクリート造。内田有紀さんは正面玄関の ガラスの庇 がお気に入り。内部に入ると パティオ と呼ばれる中庭があり、中庭に面して大きなガラスの扉をいくつも設けて内部と外部の境界を曖昧にしています。パティオ周りの建物の光と影に萌えるという内田さん。
パティオの階段を登ると屋上庭園に出ます。伯爵たちは週末になると屋上庭園でパーティーを楽しみました。
イギリスのケンブリッジ大学に留学した経験もある小笠原伯爵は芸術への造詣も深く、当時の芸術の粋を結めたモダンな邸宅を建てました。
社交場として使用された円形の シガールーム(喫煙室)。タバコや葉巻をトルコやエジプトから輸入していたためイスラム風の装飾が施されています。大理石の飾り柱には凝った彫刻の柱頭が付けられ、窓枠にも細かい装飾が。
ヨーロピアンな感じとイスラムな感じが混じっているところが内田さんのツボ。レトロ建築の中で異世界・異次元を旅するのが好きだと語ります。
戦後1948年(昭和23年)に米軍に接収され、1952年に東京都に返還。1975年まで東京都福祉局中央児童相談所として使用されましたがその後は放置されていました。
取り壊しも検討されましたが2000年(平成12年)になり民間貸出が決定。修復工事を経て2002年(平成14年)レストラン 小笠原伯爵邸(おがさわらはくしゃくてい)としてオープンしました。
レストランは2008年より14年連続でミシュラン1つ星。シェフの ゴンサロ・アルバレス(Gonzalo Alvarez)さんがつくる最先端のヌエバ・コシーナ(新しいスペイン料理)をいただくことができます。
食事の際に見学を旨を伝えると建物内部の見学が可能です。
レストランとは別に気軽にドリンクや軽食がいただけるカフェ&バー OGA BAR(オガバル)があり、アフタヌーンティーセットも提供。優雅なお茶の時間を過ごすことができます。パティオ席・2階席・屋上庭園席もあり。
名前 | 小笠原伯爵邸(おがさわらはくしゃくてい) |
住所 | 東京都新宿区河田町10-10 |
電話番号 | 03-3359-5830 |
WEB | https://www.ogasawaratei.com/ |
営業時間 | [レストラン・カフェ]11:30~15:00, 18:00~23:00 |
定休日 | 年末年始 |
美の壺 一、様式:建物で味わう世界旅行
ひとつめのツボは 様式:建物で味わう世界旅行。
米山勇さん / 建築史家・江戸東京博物館研究員
建築史家・江戸東京博物館研究員の 米山勇(よねやま いさむ)さんは1965年東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了後、日本学術振興会特別研究員、早稲田大学大学院非常勤講師、日本女子大学非常勤講師を経て、東京都江戸東京博物館研究員。日本銭湯文化協会理事。
日本近現代建築史、江戸東京の建築・都市史を専門に活躍し、著書も多数。
美の壺 File 414「フランク・ロイド・ライト」の回にも出演されていました。
番組では米山さんが 東京のレトロ建築 を案内してくれました。
名前 | 米山勇(よねやま いさむ) |
WEB | https://www.facebook.com/yoneskyf |
米山勇さんが監修したモダニズム建築鑑賞ガイド。
三菱一号館 / 日本最初のオフィスビル / イギリス・ヴィクトリアン様式
東京・丸の内 の 三菱一号館(みつびし いちごうかん)、現在の建物は明治27年(1894年)竣工した日本初のオフィスビル「第1号館」を再建したもの。明治政府の建築顧問であったイギリス人建築家 ジョサイア・コンドル(Josiah Conder)設計のイギリス・ヴィクトリアン様式の煉瓦造の建築物でした。
一番の特徴は 赤れんが。本来構造材として使う赤れんがを外壁の装飾として取り入れた当時としては画期的な手法。19世紀のイギリスでは外壁に赤れんがをそのまま出すスタイルが流行。イギリス出身のコンドルは日本でもイギリスで流行していたヴィクトリアン様式の建築を設計しました。
その後17年間で丸の内には赤れんがのオフィスが次々と建ち、まるでロンドンのような景観に。一丁(約100m)の間の華やかなオフィスの街並みは「一丁倫敦(いっちょうロンドン)」と呼ばれるまでになりました。
しかし明治期に建てられた建築物は老朽化のために昭和43年(1968年)に解体されてしまいます。2000年代に入り丸の内の再開発を計画する過程で1894年竣工の「第1号館」を再建するプランが決定。平成21年(2009年)に復元され、美術館として 三菱一号館美術館(みつびし いちごうかん びじゅつかん)を開館することになりました。
名前 | 三菱一号館美術館(みつびし いちごうかん びじゅつかん) |
住所 | 東京都千代田区丸の内2-6-2 |
WEB | https://mimt.jp/ |
営業時間 | 火水木土日:10:00~18:00、金:10:00~20:00 |
定休日 | 月曜、年末年始 |
明治生命館 / アメリカン・ルネッサンス
東京・丸の内 の 明治生命館(めいじせいめいかん)は昭和9年(1934年)竣工。設計は 岡田信一郎(おかだ しんいちろう)・岡田捷五郎(おかだしょうごろう )兄弟、構造設計は 内藤多仲(ないとう たちゅう)。保険会社 明治生命(現・明治安田生命)の本社として建てられました。大戦後はGHQに接収され1956年に返還。1997年に重要文化財に指定されました。
まるでギリシャ神殿のような威厳あふれる造り。外観で目を引くのは コリント式の巨大な柱。柱頭にはアカンサスの華やかな彫刻。同じ装飾がずらりと並び統一性のあるデザインになっています。
ギリシャ・ローマを模範とするスタイルが近代になってアメリカで流行。アメリカン・ボザール または アメリカン・ルネッサンス と呼ばれる様式に。ニューヨーク証券取引所やニューヨークの裁判所の外観にも列柱が付けられています。
明治生命館はそのアメリカン・ルネッサンスに影響を受けた古典的なデザイン。入り口を入ると重厚な柱が当時のまま26本並びます。天井には ロゼット と呼ばれる花形飾りがびっしり。職人がひとつひとつ彫り出した石膏の彫刻。
外も中も秩序統一を保つデザインで威厳と信用の獲得を目指しています。
名前 | 明治生命館(めいじせいめいかん) |
住所 | 東京都千代田区丸の内2-1-1 |
WEB | https://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/open/ |
営業時間 | 水木金:16:30〜19:30、土日:11:00〜17:00 |
定休日 | 月曜、年末年始 |
東京都庭園美術館 / 旧 朝香宮邸 / パリ アール・デコ様式
東京・白金 の 東京都庭園美術館(とうきょとていえんびじゅつかん)は 旧 朝香宮邸(あさかのみやてい)。昭和8年(1933年)竣工。
外観はモダニズムの流れを汲んだシンプルなデザイン。
玄関に入ると ルネ・ラリック(René Lalique)「ガラスレリーフ扉の女性像」の放射状に広がる左右対称の翼を持つ4体の女性像が出迎えます。このガラスレリーフをはじめ邸内は20世紀にパリで流行した アール・デコ と呼ばれる装飾様式で彩られています。
アール・デコは対称的で幾何学的な模様が特徴。工業や交通の発展を背景に機械の美やスピード感を表現しています。
来客室には マックス・アングラン(Max Ingrand)「エッチング・ガラス扉」が。
アール・デコが誕生したのは1925年にパリで開催された 現代装飾美術・産業国際博覧会(通称:アール・デコ展)。建築・家具・ファッションなど生活に根ざしたデザインがテーマの博覧会。会場を訪れた 朝香宮鳩彦王(あさかのみや やすひこ)・允子(のぶこ)夫妻が初めて目にしたアール・デコに衝撃を受け、帰国後すぐにアール・デコ・スタイルの邸宅を作り始めます。
次室(つぎのま)で存在感を放つ白磁の置物はフランス・セーブルで作られた アンリ・ラパン(Henri Rapin)「香水塔」。照明部分に香水を垂らして香りを楽しみました。連続する渦巻きはアールデコ特有の装飾。
空調設備を隠すラジエーターカバーまで幾何学的デザイン。隅々まで趣向が凝らされたアールデコの殿堂です。
名前 | 東京都庭園美術館(とうきょとていえんびじゅつかん)旧 朝香宮邸(あさかのみやてい) |
住所 | 東京都港区白金台5-21-9 |
WEB | https://www.teien-art-museum.ne.jp/ |
営業時間 | 10:00~18:00 |
定休日 | 第2・第4水曜、展覧会準備期間、年末年始 |
美の壺 二、商店:時代を映す 店の顔
ふたつめのツボは 商店:時代を映す 店の顔。
マテウシュ・ウルバノヴィチ さん / グラフィックアーティスト / 看板建築
グラフィックアーティストの マテウシュ・ウルバノヴィチ(Mateusz Urbanowicz)さんの仕事を紹介。マテウシュ・ウルバノヴィチさんはポーランド出身。日本のアニメと漫画を学ぶために神戸芸術工科大学大学院に留学し、修了後にアニメ製作会社コミックス・ウェーブ・フィルム入社。新海誠監督の2016年の大ヒット映画「君の名は。」の背景美術を担当して一躍有名に。
現在は独立し、個人で活動。イラスト集「東京店構え」「東京夜行」が好評発売中。
来日して10年のウルバノヴィチさんが夢中になっているのが大正から昭和にかけて建てられた レトロ商店。ポーランドでアニメで見ていたものが、日本に来るとそのままで目の前にあったことが嬉しかったのだそうです。
中でものっぺりとした外壁に店主たちが思い思いにデザインした 看板建築(かんばんけんちく)が大好き。自ら看板建築を取材に行き水彩絵具の優しいタッチのイラストにしています。これまに描いたレトロ商店のイラストは約70点ほど。番組ではその作品の制作過程を紹介。
妻で漫画家の 香苗(かな)さんもウルバノヴィチさんの絵に惹かれています。ウルバノヴィチさん独特の色彩感覚があり、いつも絵が完成するのが楽しみなのだとか。
ウルバノヴィチさんの作品づくりは建物の取材から始まります。東京・築地 でカメラを片手に素材探し。目に止まったのは昭和初期に建てられた トラヤ薬局(トラヤやっきょく)。クリーム色の外壁には幾何学的な装飾が施され、窓にはステンドグラス。
かわいいパン屋さん 築地 木村屋(きむらや)を発見。4代目店主の 内田秀司さんに話を伺いました。
創業は明治43年(1910年)。現在の店舗は関東大震災の後に建てた大正時代の建物。銀座木村屋のれん分けのお店で罌粟あんぱん(けしあんぱん)が名物です。
アトリエに戻って作品作り。築地 木村屋(きむらや)を描きます。
輪郭線はえんぴつで下書きをして万年筆で描きます。
色付けのポイントは影。暗い部分に様々な色を重ねて深みを出します。さらに風化の様子を緻密に加えてレトロ商店ならではの歴史を表現。昔あったという吊り看板も想像で描きました。
建物のフロントは店の顔。店主たちが自分の店を格好良くしたいと工夫して作られているところがすごく好きだというウルバノヴィチさん。似顔絵を描くような気持ちで看板建築を描いていると語っていました。
名前 | マテウシュ・ウルバノヴィチ(Mateusz Urbanowicz) |
WEB | https://mateuszurbanowicz.com/ |
マテウシュ・ウルバノヴィチさんの作品集。
築地 木村屋 / 創業100年を超えるパン屋さん / 看板建築
ウルバノヴィチさんが訪れていたかわいいパン屋さんは 築地 木村屋(きむらや)。4代目店主は 内田秀司 さん。
創業は明治43年(1910年)。現在の店舗は関東大震災の後に建てた大正時代の建物。銀座木村屋のれん分けのお店で罌粟あんぱん(けしあんぱん)が名物です。カレーパンも人気。
名前 | 築地 木村屋(きむらや) |
住所 | 東京都中央区築地2-10-9 |
WEB | https://www.tsukijikimuraya.com/ |
営業時間 | 月〜土:7:00〜20:00 |
定休日 | 日曜 |
江戸東京たてもの園 / 昭和初期の看板建築
東京・小金井市 の 江戸東京たてもの園(えどとうきょうたてものえん)。平成5年(1993年)に東京都江戸東京博物館の分館として都立小金井公園内に開園した野外博物館。現地保存が不可能な文化的・歴史的価値の高い建造物を移築・復元し、保存・展示し、貴重な文化遺産として次代に継承することを目的としています。江戸時代から昭和中期に、かつて都内にあった民家、商店、住宅など30棟の建物が当時の街並みを再現。昭和初期の看板建築は たてもの園の「東ゾーン」にあります。
宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」の作画に たてもの園の銭湯や下町の商家建築のデザインが参考にされたことも知られています。
武居三省堂 / 文具店 / タイル貼り
紹介されていたのは昭和初期に建てられた6軒の 看板建築(かんばんけんちく)。
神田で筆や墨を売っていた文具店 武居三省堂(たけいさんしょうどう)。昭和2年(1927年)の建物で、外壁はタイルを貼ったモダンな造り。
丸二商店 / 雑貨店 / 銅板貼り
昭和初期に建てられた雑貨店 丸二商店(まるにしょうてん)は銅板貼り。
どちらも銅板やタイルは正面にだけ貼られていて、建物の側面は木造の様子があらわになっています。どうしてこのような造りになったのでしょうか。
関東大震災復興期の看板建築
きっかけとなったのは大正12年(1923年)に起こった 関東大震災 でした。地震後に起きた火災により東京市の42%が焼失。都市部と下町はほぼ全域が焦土と化し、早急な復興が必要となりました。
町の復興計画の指揮を執ったのが元東京市長の 後藤新平(ごとうしんぺい)。
後藤は国家予算のおよそ3分の1を投じて復興事業に次々と着手。中でも幹線道路の設置や区画整理には力を入れ災害に強い都市づくりを行いました。
木造建築の正面には防火対策として 不燃材 の使用を義務化。制約の多い中人々は再建に立ち上がりました。
解説してくださったのは江戸東京たてもの園・江戸東京博物館館長で建築家の 藤森照信(ふじもり てるのぶ)さん。
震災の復興期というのは昭和の初期で個人商店の全盛期。一日でも早く造ればそれだけ商売もうまくいくということで、競い合うように再建に力を注いだといいます。
隣の家は建物正面をモルタル仕上げにしたからうちはスレッド使おう、うちは銅板だ、というように一種の競争状態になり、それぞれが趣向を凝らしたファサードを作り上げていきました。
看板建築には震災復興にかける人々の思いが込められています。
花市生花店 / 生花店 / ショーウインドー
花市生花店(はないちせいかてん)も震災後看板建築の店を神田で構えました。不燃材の銅板には生花店らしく花モチーフのレリーフが。桜に桐バラ菊ぼたんなど四季折々の華やかな花で飾られています。
入り口には当時では珍しいガラス張りのショーウインドー。間口の半分を占めるほど大胆に取り入れ、商品である美しい花を見せる店構えになっています。
店主は代々花の行商をしていたという 齊藤市太郎(さいとういちたろう)さん一家。
神田という町場で店舗を構えるのは大きな挑戦でした。洋花も多く取り扱い料理店や華道の先生を相手に切り盛りしました。
店の奥は住宅となっています。モダンでおしゃれな店舗部分と私生活部分の落差がすごいと藤森さんは指摘。狭い住宅部分は家族だけではなく、4~5人はいる使用人も全員が寝泊まりしていたのだとか。ちゃぶ台のある居間も夜は片づけて布団を敷いて寝ていました。家族や従業員が一丸となってお店を盛り上げていたのです。
植村邸 / 貴金属店 / マンサード屋根
そしてもう一つ看板建築を象徴するのが縦に長い形。
貴金属店の 植村邸(うえむらてい)は2階建てと思いきや、銅板レリーフの奥に3階部分がありました。
しかし当時の法律では3階建ての木造建築は禁止。どうして建てることができたのでしょうか?
当時建築の指導は警視庁が担当。当時建築主が警視庁へ行くと「ヨーロッパの マンサード というやり方があるからそれでやれば階としては認めずに階としては使える」と教えてくれたそうです。
当時の市街地建築物法では屋根裏は階数に含まれませんでした。そこで「マンサード屋根(腰折れ屋根)」と呼ばれる折れ曲がった屋根を用いて屋根裏に十分な空間を確保しました。
厳しい状況下をかいくぐるデザインでした。
国や東京市が決めた建築法規がある中で、個人事業主が主体的に取り組んで、自分たちの町を自分たちで作った最後の時代かもしれない、と藤森さん。
名前 | 江戸東京たてもの園(えどとうきょうたてものえん) |
住所 | 東京都小金井市桜町3-7-1(都立小金井公園内) |
WEB | https://www.tatemonoen.jp/ |
営業時間 | 火〜日:[4月-9月] 9:30~17:30、[10月-3月]9:30~16:30 |
定休日 | 月曜、年末年始 |
藤森照信さん / 江戸東京たてもの園・江戸東京博物館館長
江戸東京たてもの園・江戸東京博物館館長で建築家の 藤森照信(ふじもり てるのぶ)さん。藤森さんは1946年長野県生まれ。東北大学工学部建築学科卒業後に東京大学大学院へ進学し、近代日本建築史を研究。
東京大学生産技術研究所助教授、同教授を勤め、2010年に東京大学を定年退職。2016年に江戸東京たてもの園・江戸東京博物館館長に就任されました。
近代日本建築史に関する著書も多数。建築を専門としない人々にもわかりやすい面白い切り口の文章が人気です。また1991年からは建築設計にも携わり、独創的な作品を設計されています。
藤森照信さんの著書。
美の壺 三、居心地:時が重ねた心地よさ / 木村多江のレトロ建築探訪
三つ目のツボは 居心地:時が重ねた心地よさ。木村多江さんがレトロ建築を訪ねます。
木村多江さん / 明神湯 / 昭和の面影を残す銭湯
木村多江 さんが訪れたのは 東京・大田区の住宅街にある老舗銭湯 明神湯(みょうじんゆ)。昭和32年(1957年)に建てられた宮造りの外観の銭湯で、丸山清人絵師の富士山のペンキ絵や古いマッサージ器などレトロな雰囲気が魅力。本日の薬用風呂、ジャグジー、気泡風呂があります。
映画のロケやCMなどにもよく使われいて、映画「テルマエロマエ」にも登場します。
多江さんが訪れてまず圧倒されたのが神社や寺を思わせる重厚な姿。あちこちに日本の伝統的な建築の技が使われています。
煙突の下の巨大な瓦屋根は緩やかな曲線を描く 唐破風(からはふ)。屋根の妻飾りには火よけの願いを込めたという 懸魚(げぎょ)と呼ばれる飾り板。
東京の銭湯を代表する建築様式で 宮造り(みやづくり)と呼ばれています。
中へ入ると天井が高く開放的な空間が広がります。
案内してくれたのは銭湯の2代目 大島昇(おおしまのぼる)さんと妻 大島みつ子(おおしまみつこ)さん。
立派な木材で作られた天井は 折上格天井(おりあげごうてんじょう)という意匠。壁から支輪を湾曲して立上げていて曲線も優雅です。普通の格天井よりも手間暇がかかり格式の高いつくりとされています。時間の経過で木材の色が深みを増し美しい木目が味わい深いです。
多江さんが見つけたのはお釜のドライヤー。昔のパーマ屋さんにもあったという頭の上からすっぽりかぶせる形です。
一方にグルグル回るので手を添えながら乾かすのだとか。牛乳でも飲みながら、と多江さん。
気になるのが風格のある木の番台。今番台自体ない銭湯も多く、明神湯さんが加入する池上組合でも1軒のみ。
お客様の高身長化に合わせて20cm高くしたものの、ほぼ昭和32年の建設当初のままの番台です。
子どもの頃から一度座ってみたかったという多江さん、初番台。
全体が見えてお子さんが走ってたりすると滑ったりしないか気をつけるろうです。
浴室には富士山の壁画。縦2.6m、横15mの巨大パノラマ。銭湯絵師の 丸山清人(まるやま きよと)さんが描いたペンキ画です。
昔ながらの 釜場(かまば)も現役。大島さんは今も木材が揃うかぎり薪で湯を沸かしています。お客さんにも薪で沸かしたお風呂はよくあったまるっと好評だそうです。
釜場の仕事は重労働。お客さんも「無理はしないでね」と気遣ってくださいます。
いつまでも続けて欲しい昔ながらの銭湯。多江さんも初めて来たのに懐かしさに包まれたひとときでした。
名前 | 明神湯(みょうじんゆ) |
住所 | 東京都大田区南雪谷5-14-7 |
WEB | http://ota1010.com/explore/明神湯/ |
営業時間 | 16:00〜23:00 |
定休日 | 5日・15日・25日(日曜、祭日の場合は翌日) |
フランク・ロイド・ライト / アメリカ人建築家 / 帝国ホテル、自由学園明日館
世界的建築家 フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)は1867年アメリカ合衆国ウィスコンシン州生まれ。
100年前の大正6年(1917年)に日本を訪れ、帝国ホテル、旧林愛作邸、旧山邑邸(現:ヨドコウ迎賓館)、自由学園明日館、の4作品を設計しました。
美の壺 File 414「フランク・ロイド・ライト」の回でも紹介されました。
近代建築三大巨匠の一人と称されるライトの作品は独創的。
アメリカ・ペンシルベニアの カウフマン邸(落水荘)は滝の上の家。
アメリカ・ニューヨークの ソロモン・R・グッゲンハイム美術館 はまるでかたつむりのような形。
ライトの建築が見られるのはアメリカ以外では日本だけ。
東洋の宝石とうたわれた豪華絢爛なホテル 帝国ホテル。
丘の斜面にはうように建てられた住宅 旧山邑邸(現:ヨドコウ迎賓館)。
草原に建つ家をイメージした学校 自由学園明日館。
ライトは斬新なデザインを施しながらも日本人の感覚に寄り添った建物を設計しました。
名前 | フランク・ロイド・ライト財団(Frank Lloyd Wright Foundation) |
WEB | https://franklloydwright.org/ |
木村多江さん / 自由学園 明日館 / フランク・ロイド・ライト設計の学校
木村多江 さんが訪れたのは フランク・ロイド・ライト が設計した 東京池袋 の 自由学園 明日館(じゆうがくえん みょうにちかん)。
ライトの作品としては数少ない学校建築。女学校として美しい芝生を囲む木造の校舎が造られました。竣工は大正10年(1921年)。
自由学園は1934年に移転し、以降旧校舎は「明日館(みょうにちかん)」と名付けられて様々な事業に使用されてきました。1997年に国の重要文化財に指定され、保存改修されました。
現在は見学・講習会・結婚式場・コンサート会場として利用しながら保存する「動態保存」のモデルケースのひとつとされています。見学時にはホールまたは食堂でコーヒー・紅茶や焼菓子をいただくことも可能。
入場券は建物の見学だけの券と喫茶付きの券と2種類。見学のみ 500円、喫茶付き見学 800円。
入り口には段差が無く、玄関も石畳。靴箱はあるので生徒たちは靴を履き替えていたのでしょうか。
教室は屋根と同じ勾配のついた天井で、家にいるような居心地のよさ。この校舎全体が生徒たちの「大きな家」となるべる設計されています。
校舎の真ん中にあるホール。外から見ても学校の中央にある最も特徴的な場所。
高い天井に縦長の窓。直線だけでデザインされた幾何学模様のデザイン。明るい光がたっぷり差し込みます。
案内してくれたのは広報の 岡本真由美(おかもと まゆみ)さん。ライトは火があるところは人が集まって団らんが生まれると考えていたため、リビングルームには暖炉をしつらえました。自由学園も学校でありながら、人が集まる場所に暖炉を設置しています。
自由学園は生徒26人でスタートしました。創設者の 羽仁吉一(はに よしかず)・羽仁もと子(はに もとこ)夫妻が目指したのは従来の学校教育とは一線を画した自由な教育。
ここでは日々の生活全てが学びの場。食事も生徒同士が協力して作り家族のように過ごしていました。
ライトは故郷アメリカの草原に建つ家・プレーリーハウス をイメージしてこの校舎を造ったといいます。三角屋根のかわいらしい学校は生徒たちにとって家のような場所でした。
食堂も大きな家のよう。「温かい食事と温かい時間」という創設者の信念のもと生徒たちはここで日々の食事を共にしました。
生徒だけでなく先生も一緒に、一つの大きな家族のように集まって楽しいひとときを過ごしたのです。
食堂の印象的なペンダントの照明もライトが設計。ライトが建築中に下見に来た時に女の子たちが食事をするには少しこの空間が広すぎると感じ、一晩で設計をしてきてこの照明を付けるようにと指示を出したという逸話が残っています。
歴史が刻まれた食堂で今はティータイムを楽しむことができます。多江さんも学校として使われていた時間に想いを馳せながらお茶をいただいていました。ゆったりとした時間が流れてる心穏やかなひととき。
重要文化財の中でお茶を頂いていいんだろうかと気にかかった多江さん。副館長の 福田竜(ふくだ りゅう)さんに聞いてみました。
この建物は人がいてすごく生き生きする建物だと考えて、人々に活用されるように運営されているのだとか。結婚式の披露宴の会場としても使われ、床にはハイヒールの跡も付いています。
こうした取り組みは 動態保存(どうたいほぞん)という文化財保護の一環。建物を使うことで文化財としての価値を高め保存につなげるというもので、明日館はその先駆けとなってます。
公開講座も頻繁に行われていて、この建物の原点、学びの場としての役割も大切にしています。
取材した日はオカリナ講座が開かれていました。参加者の方々もこの建物の中でオカリナを吹いてるだけで幸せな気分になる、と楽しそうでした。
名前 | 自由学園 明日館(じゆうがくえん みょうにちかん) |
住所 | 東京都豊島区西池袋2-31-3 |
WEB | https://jiyu.jp/ |
営業時間 | 火〜日:10:00〜16:00、第3金曜日の夜間見学:18:00 〜 21:00 |
定休日 | 月曜、年末年始 |
入場料 | 見学のみ 500円、喫茶付き見学 800円 |
美の壺 四、装飾:手仕事が生み出す華やぎ
四つ目のツボは 装飾:手仕事が生み出す華やぎ。
船岡温泉 / 銭湯 / マジョリカタイル
レトロ建築ファン憧れの銭湯と紹介されていたのは 京都市北区 の 船岡温泉(ふなおかおんせん)。大正12年(1923年)に料理旅館「船岡楼」の付属浴場として営業を開始。昭和22年(1947年)から本格的に銭湯として営業しています。
格天井の脱衣所は当時の面影を残しています。欄間の上には マジョリカタイル と呼ばれるハイカラなタイル。さらに脱衣所から浴室への通路は壁一面をマジョリカタイルが覆っています。
マジョリカタイル は明治末期から昭和初期にかけて作られた国産タイル。
特徴は多彩な色使いと立体的でぽってりとした質感。かつて地中海・マヨルカ島を経由して運ばれたスペインの器が色鮮やかだったことからマジョリカタイルと呼ばれました。
名前 | 船岡温泉(ふなおかおんせん) |
住所 | 京都府京都市北区紫野南舟岡町82-1 |
WEB | http://funaokaonsen.net |
営業時間 | 15:00〜23:30 |
定休日 | 不定休 |
利用料 | 大人:430円、小学生:150円、未就学児・乳幼児:60円 |
INAXライブミュージアム / タイルの博物館 / マジョリカタイル + テラコッタ
愛知県常滑市(とこなめし)にあるタイルの博物館 INAXライブミュージアム(イナックス ライブミュージアム)。紀元前から近代まで7,000点を超えるタイルと資料が残されています。
こちはの博物館は 美の壺 File 601「唐草」の回にも登場しました。
和製マジョリカタイルの復元
解説してくださったのは館長の 尾之内明美 さん。
見せてくれたのはは昭和10年頃に発行された日本のタイルメーカー SAJI TILE(佐治タイル)のカタログ。船岡温泉のマジョリカタイルも佐治タイルが生産したものです。
この時代のタイルのカタログは英語で書かれていることが多く、輸出を視野に入れてカタログを作っていたのではないかと考えられます。
明治時代に生産が始まった日本の マジョリカタイル。昭和初期にはアジアからアフリカまで広く世界へ輸出されていました。
デザインは海外のタイルにならったものだといいます。
当時イギリス製の装飾タイルは豊富なデザインと上品な美しさで世界中の人気を博していました。中でも鮮やかさで群を抜いていたのが マジョリカタイル。
しかし日本では高嶺の花。タイルを再現しようと国産化が進められました。
実際どのように作られたのでしょう。INAXライブミュージアム ものづくり工房の 中斎紀夫 さんに復元をしてもらいました。
見せてくれたのは色付けの作業。素焼きした生地に釉薬(ゆうやく)を塗っていきます。
模様の輪郭は盛り上げて色が混じらないようにする「チューブライニング」という技を応用。
機械でプレスして凹凸を作りました。釉薬はスポイトを使いたっぷり盛り上げるように。
最初はイギリスのタイルのまね事からスタート。手元にある原料や設備で日本の職人が工夫を重ねて憧れの色と艶を作り出していました。
INAXライブミュージアム収蔵の和製マジョリカタイルや、タイルに彩られた国内外の建築事例を収録した書籍。
帝国ホテルのテラコッタの復元
帝国ホテルのテラコッタ の復元プロジェクトが行われていたのも INAXライブミュージアム ものづくり工房。かつて帝国ホテルのテラコッタも常滑で製造されていました。
芦澤忠 さんがテラコッタの復元作業を見せてくれました。
複雑なデザインのテラコッタ。当時の記録をもとに石膏の型を作り粘土を成形。
型に空気が入らないように30分かけて詰め、乾かして型から外します。さらに1時間かけて緻密に形を整えます。
これほどまでに直線的で複雑なデザインのテラコッタはなかなかない、というほど凝ったデザイン。
主任学芸員の 後藤泰男(ごとう やすお)さんは、ライトが描いたテラコッタの設計図に細部の装飾が描き込まれていないことから、ライトの要望に対して職人応えデザインを変更していく現場のやり取りが行われていたのではと推測。
世界的建築家と名もなき職人たちが生み出した唯一無二のテラコッタです。
名前 | INAXライブミュージアム(イナックス ライブミュージアム) |
住所 | 愛知県常滑市奥栄町1-130 |
WEB | https://livingculture.lixil.com/ilm/ |
営業時間 | 木〜火:10:00~17:00 |
定休日 | 水曜、年末年始 |
利用料 | 一般:700円、高・大学生:500円、小・中学生:250円 |
帝国ホテルのスクラッチタイルとテラコッタの魅力や復元を伝える書籍。
東華菜館 / 中華料理店 / テラコッタ
京都市下京区 の四条大橋のたもとにある中国料理のレストラン 東華菜館(とうかさいかん)。
大正15年(1926年)竣工の建物はヴォーリズ建築事務所による設計。当時普及し始めた鉄筋コンクリート造の建物です。
壁面を見ると立体的な模様が貼り付けられています。マジョリカタイルが日本で作られていたのと同時代に建物を華やかに飾っていた焼き物の装飾材 テラコッタ。
彫刻作品のような複雑なものから規則的な文様まで、粘土で思い思いの形にできるのがテラコッタの魅力。さまざまなデザインが作られ建築に多彩な個性を与えました。
名前 | 東華菜館(とうかさいかん) |
住所 | 京都府京都市下京区斎藤町140-2 |
WEB | https://www.tohkasaikan.com/ |
営業時間 | 11:30~21:30 |
定休日 | なし |
帝国ホテル旧本館 / 帝国ホテル煉瓦製作所 / 伊奈製陶(INAX)/ テラコッタ
自由学園の設計者 フランク・ロイド・ライト が設計した 帝国ホテル旧本館(ライト館)は1923年に竣工。老朽化のため解体されてしまいましたがその一部が移築復元されました。愛知県犬山市の 博物館明治村(はくぶつかん めいじむら)で 中央玄関 を原形に近い形で見る事ができます。
帝国ホテル旧本館(ライト館)で使われている 煉瓦(れんが)と テラコッタ。表面にたくさんの筋が入ったレンガとテラコッタはライトが帝国ホテルのために特別に注文したもの。
美の壺 File 414「フランク・ロイド・ライト」の回でもレンガとテラコッタが紹介されていました。
玄関を入るとメインロビーの大空間。その四方にそそり立つ巨大な柱に テラコッタ がびっしり埋め込まれています。
幾重にも連なる幾何学模様。照明としての役割も備え幻想的な景色を見せています。約20cm四方のテラコッタもライト自らデザインしました。
愛知県常滑市(とこなめし)の 帝国ホテル煉瓦製作所 の工場で 筋が入ったスクラッチタイル「通称:すだれ煉瓦」や「すだれ異型テラコッタ」を製造。
帝国ホテル煉瓦製作所は大正10年(1921年)に製造を終え、設備と従業員を技術顧問をしていた 伊奈初之烝 に譲り渡しました。同年、匿名組合伊奈製陶所が設立され、1924年に 伊奈製陶株式会社 を設立。これがタイルやトイレの便座や洗面陶器で有名な INAX(イナックス)の前身です。
名前 | 博物館明治村(はくぶつかん めいじむら) |
住所 | 愛知県犬山市内山1番地 |
WEB | https://www.meijimura.com/ |
営業時間 | 3〜7・9・10月:9:30~17:00、8月:10:00~17:00、11月:9:30~16:00、12月~2月:10:00~16:00 |
定休日 | 不定休 |
一般公開されているフランク・ロイド・ライトの74の作品を紹介した書籍。
美の壺 再生:レトロを未来へ
最後のツボは 再生:レトロを未来へ。
国際子ども図書館 / 旧帝国図書館のリニューアル
東京・上野公園内の国際子ども図書館(こくさいこどもとしょかん)は明治39年(1906年竣工)の 旧帝国図書館 を改修した施設。建物はれんがの壁に石造りのレリーフ、ルネサンス様式を取り入れた堂々たる明治期洋風建築。3階まで吹き抜けになっている大階段は、開館当時の華々しさを今に伝えています。
永田町に国立国会図書館東京本館が建てられてからは分館として運営されていましたが、1990年代に用途が見直され、児童書専門の図書館として再活用されることになりました。平成14年(2002年)にリニューアルしオープンしています。
改修設計に携わったのは建築家の 安藤忠雄(あんどう ただお)さん。歴史的建造物のできるかぎり保全しながらも、ガラスの箱を挿入するという大胆な方法でリノベーションされています。
100年前の建物を包み込むガラス。歴史的建築と現代建築が同時に体感でき、来館した子どもたちが歴史に興味を持ち、かつ未来に対する希望も抱けるような空間を作ろうと考えたと語ります。
元の建物を修復保存しながら外壁だった壁の外側にガラス張りの新たなスペースを付け加えました。
子どもたちがのびのびと過ごせる開放的なラウンジはまるで100年前の建物を眺めることができるギャラリーのよう。遠くからしか見られなかった外壁や窓を間近に観察できるようにしました。
当時の大工・左官屋・現場監督・設計者、100年前の先人たちの仕事ぶりが伝わってきます。
かつて裸電球の下大人たちが読書や調べ物に没頭した閲覧室は、子どもたちがどの位置にいても影ができにい光天井の部屋に改装されました。
名前 | 国際子ども図書館(こくさいこどもとしょかん) |
住所 | 東京都台東区上野公園12-49 |
WEB | https://www.kodomo.go.jp/ |
営業時間 | 火〜日:9:30〜17:00 |
定休日 | 月曜、第3水曜、祝日、年末年始 |
安藤忠雄さん / 建築家
国際子ども図書館(こくさいこどもとしょかん)を設計した建築家 安藤忠雄(あんどう ただお)さんは1941年大阪府生まれ。
高校在学中にプロボクサーとなり、1年半ほど活動した後に建築の道へ。世界を放浪した後に1969年に安藤忠雄建築研究所を設立。1976年竣工の「住吉の長屋」が高い評価を受け、コンクリート打ち放しの独自の建築表現を確立。1990年代以降は公共建築や美術館など規模の大きな作品を次々と発表し、日本を代表する建築家のひとりとなりました。
美の壺 File 507「階段」 に出演されたときは、安藤忠雄さん設計の「ベネッセハウス ミュージアム」「ガレリア・アッカ」「兵庫県立美術館」が紹介されました。
名前 | 安藤忠雄建築研究所(あんどうただお けんちくけんきゅうしょ) |
住所 | 大阪府大阪市北区豊崎2-5-23 |
WEB | http://www.tadao-ando.com/ |
高田世界館 / 日本最古級の映画館
日本有数の豪雪地帯 新潟県上越市高田。町には 雁木(がんぎ)と呼ばれる昔ながらの雪よけの屋根が並びます。
レトロな映画館 高田世界館(たかだせかいかん)は明治44年(1911年) に芝居小屋「高田座」として開業。大正5年(1916年)に「世界館」と改称し常設映画館となりました。
以降は名前を変えながらも映画館として営業していましたが、2009年に閉館・廃業。現在はNPO法人「街なか映画館再生委員会」によって運営されています。開館から今年で110年となり、現役の映画館では最古の建物の一つと言われています。
取材の日は無声映画の上映会が行われていました。サイレント映画の時代には活動弁士が立ち興行していたそうです。
日本映画の黄金時代を支えた映画館のレトロな佇まい。
2階席には大正時代の椅子が残されています。大工の棟梁が腕を振るって洋風の空間に仕上げ、柱は古代ギリシャ建築のデザインに。
天井の木組みも配置に凝ってモダンな雰囲気。かつてはシャンデリアも飾られ華やかな空気に包まれていたといいます。
平成19年(2007年)に発生した新潟県中越沖地震で映画館も被害を受け、建物の存続が困難に。閉館の話が持ち上がります。
話をしてくださったのは映画館を運営する NPO法人 街なか映画館再生委員会 委員長の 岸田國昭(きしだくにあき)さん。
当時東京からUターンしていた岸田さんは、同じ頃に高田の町からデパートが消えていく状況の中で映画館も消えてしまうことに危機感を抱いたといいます。
岸田さんは「人が集まれる場所が欲しい」と映画館のオーナーから建物を譲り受けNPOを設立。町の人や映画ファンに協力を募り、少しずつ修繕をしていきました。
掃除もボランティアで行います。地域の人たちが携わることで映画館は息を吹き返しました。
岸田さんは横浜の大学院で映画を学んでいた当時26歳の 上野迪音(うえのみちなり)さんを支配人に抜擢。上野さんは今では貴重な35ミリフィルムの映写機を使いながら、最新の上映システムも導入。都市部で公開される作品も綺麗な映像でいち早く見られる環境を整えました。古いまま映画資料館のようにするのではなく、お客さんと会話をしたり、何かが生まれる現場にしたいと語る上野さん。
映画館の周辺にも変化が。隣にある築90年の古い町家はカフェ 世界ノトナリ(せかいのとなり)にリニューアル。映画館のファンだった人たちが鑑賞後に立ち寄れるようにと始めました。
今では訪れる客層も広くなり新たな常連客も増えたといいます。さまざまな人たちを温かく迎え入れるレトロな映画館です。
名前 | 高田世界館(たかだせかいかん) |
住所 | 新潟県上越市本町6-4-21 |
WEB | http://takadasekaikan.com/ |
営業時間 | 上映時間は公式サイトを参照 |
定休日 | 火曜 |
世界ノトナリ / 高田世界館の隣のカフェ
高田世界館(たかだせかいかん)の隣にある築90年の古い町家を改装したカフェ 世界ノトナリ(せかいのとなり)は2018年オープン。高田世界館のファンだった 大久保喜和 さんと 佐藤範子 さん、友人同士の共同経営です。
映画を見終わったあとゆっくりお茶や食事を楽しむ場所がほしい、と始めたカフェ。挽きたての豆で入れたコーヒーや手作りスイーツがいただけます。軽食やランチもあり。高田世界館に行く際には立ち寄りたいカフェです。
名前 | 世界ノトナリ(せかいのとなり) |
住所 | 新潟県上越市本町6-4-19 |
営業時間 | 10:00〜17:00 |
定休日 | 月曜・火曜 |
エピローグ
草刈さんが席を外した間、家を建てたお爺さん、お祖母さんが次々登場し、家への愛情を語ります。
タワマンの営業さんは「皆さんの思い出が詰まった家を大切にしてください、私も愛着のわくタワマンを目指します!」と帰って行きました。
U-NEXT でNHKの動画配信サービス NHKオンデマンド を視聴可能。虎に翼・らんまん・なつぞら などの朝ドラや 光る君へ・鎌倉殿の13人・真田丸 などの大河ドラマ、探偵ロマンス・正直不動産 などの名作ドラマ、ファミリーヒストリー「草刈正雄」を一気見できます。U-NEXTは初回31日間無料トライアル。NHKオンデマンド は別料金ですが、もらえる600ポイントで購入できます。PR
音楽 BGM
ジャズの名曲が流れる美の壺。番組BGMファンもいらっしゃるのではないでしょうか。
オープニング曲と番組内挿入曲をまとめましたので参考にどうぞ。リンク先で試聴できます。
オープニングテーマ
オープニングテーマ は Art Blakey And The Messengers(アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ)の名曲「Moanin’」。ジャズドラマー アート・ブレイキーが1958年に発表した同名のアルバムに収録されています。作曲はピアニストの Bobby Timmons(ボビー・ティモンズ)。
番組内 楽曲
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