NHK「美の壺(びのつぼ)」は普段使いの器から家具、着物、料理、建築に至るまで、衣食住、人の暮らしを彩ってきた美のアイテムを解説してくれる番組。紹介されたものは何?場所はどこ?出演は誰?どこで買える?と興味津々。
そんな気になる「美の壺・美術の鑑賞マニュアル」を詳しく調べてみました。最後に番組内の音楽もまとめてあります。
美の壺「生きている器 甕(かめ)」File 619
出演は俳優の 草刈正雄(くさかり まさお)さん、ナレーション(語り)は俳優の 木村多江(きむら たえ)さんです。
最新エピソード 美の壺 File 622「炎」 もどうぞ併せてご覧下さい。
NHK BS(BS101チャンネル)
初回放送:2024年10月29日(火)17:30~18:00
再放送 :2024年11月5日(火)12:00~、2024年11月9日(土)07:30〜
BSプレミアム4K
初回放送:2024年10月23日(水)19:30~20:00
再放送 :2024年10月28日(月)13:00~、2024年10月30日(水)08:00~
2024年11月2日(土)06:45〜
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美の壺 生きている器 甕(かめ)File 619 内容
▽調味料入れとして今、人気の「かめ」。料理家が愛用するかめコレクションはインテリアから漬物用まで大活躍!
▽愛知、常滑でつくられた平安、鎌倉時代の大きなかめ。土に埋めて使われていた!?
▽美術陶芸家が昔ながらの技法を用い天草陶石でつくる白いかめ。
▽二千年以上の歴史を持つ茨城の大甕(おおみか)神社。磐座に秘められたかめの神秘。
▽沖縄で大切にされてきた厨子がめは亡き人と今を生きる人をつなぐ命の器。
プロローグ
草刈さんが台所で探していたのはおばあちゃん愛用の甕(かめ)。
おばあちゃんのつける梅干しやぬか漬け、美味しかったなぁ。
美の壺 一、貯蔵:いつもの暮らしに一役
ひとつめのツボは 貯蔵:いつもの暮らしに一役。
早川信隆さん+中村真里子さん / えんける道具店 / 暮らしに寄り添う甕【愛知県 常滑市】
知多半島(ちたはんとう)に位置する焼き物の街、愛知県常滑市(とこなめし)。紹介されていたのはどこか懐かしい雰囲気が漂う日常の道具を扱う店、えんける道具店(えんけるどうぐてん)。「えんける」とはフィンランド語で「シンプル」という意味。
解説してくれたのは店主 早川信隆(はやかわ のぶたか)さんと店員 中村真里子(なかむら まりこ)さん。
店内に並ぶのは常滑名産の急須や昭和の暮らしに寄り添ってきた七輪や湯たんぽ。
ひときわ人気なのが大きさも色も様々な 甕(かめ)。1600年創業の多治見市の窯元・菱登製陶所(ひしとせいとうしょ)の13代目 加藤則行 さんが制作。商品名「加藤さんのつくる 甕(かめ)」として販売されています。
中でも小さな甕は調味料を入れる器として求める人が多いと言います。
釉薬のついてない素焼きの甕は 塩 に最適。陶器が湿気を取るためサラサラした状態が続きます。
釉薬の処理がしてある甕は 砂糖 に最適。
調味料を入れる器として、また梅干しや漬物入れにも重宝されている小ぶりな甕です。
甕のある暮らしを提案する早川さん。かつて常滑で作られ、全国に流通していた甕を早川さんは大事にしています。梅干しやお味噌を自宅で作る方が減り、そのまま衰退して行くのは嫌だと思った早川さん。常滑の特産品だった甕というものを無くしたくないと考えています。
そして現代の暮らしに見合った甕を模索した結果、今ある色や形が生まれました。
購入された方達も毎日使っていると愛着が湧いてくるようです。
お米を入れたり、小麦を入れたり、小さな甕にスパイスを入れたり。こういうことにも使えるんだと、新しい発見もあります。甕がどんどん一人歩きして伝わっていくように感じると語っていました。
名前 | えんける道具店(えんけるどうぐてん) |
住所 | 愛知県常滑市陶郷町1-1 |
電話 | 090-4191-9511 |
WEB | http://tokonameenkel.com/ |
営業時間 | 金〜火:12:00〜17:00 |
定休日 | 水曜・木曜 |
ワタナベマキさん / 料理家 / 愛用の甕コレクション
料理家の ワタナベマキ さんは 甕(かめ)のある暮らしを楽しんでいます。
ワタナベさんは1976年神奈川県生まれ。グラフィックデザイナーとして働きながら並行して料理にも情熱を注ぎ、2005年に「サルビア給食室」を立ち上げ料理家として独立。
美味しく丁寧な日々の食事のレシピはファン多数。雑誌掲載や著書も多く、NHK「きょうの料理」、日本テレビ「キユーピー3分クッキング」にも出演されています。
美の壺 File 540「民藝(みんげい)のやきもの」の回にも出演されました。
およそ20年前、料理をきっかけに集め始めた甕。大きな甕は空間を彩る役割も担っています。
一つ一つフォルムがすごく可愛く、置いていてもインテリアにもなり、実用的にも使えるものなので、とても気に入っているのだとか。
民藝店で出会った大分の山あいで焼かれた 小鹿田焼(おんたやき)の甕。美の壺 File 540「民藝(みんげい)のやきもの」の回でも小鹿田焼の大皿やすり鉢を愛用されていましたね。
甕の中には干す前の梅干しが入っています。
島根の 出西窯(しゅっさいがま)で焼かれた甕。
大きな瓶でつけた梅干しは取りやすい大きさの瓶に入れ替えています。
最近好きが高じて器作家に作ってもらったというのは食べきりサイズのぬか漬け用の小ぶりの甕です。
時間をかけて作る料理や発酵など、自然の力を借りてできる料理を美味しく作るには甕の力が一役かっています。ずっと長く付き合っていきたい道具の1つだとワタナベマさん。日常の暮らしで良い仕事をする。それが甕です。
名前 | ワタナベマキ |
WEB | https://maki-watanabe.com |
美の壺 二、醸す:縁の下の力持ち
ふたつめのツボは 醸す:縁の下の力持ち。
小栗康寛さん / とこなめ陶の森 資料館 学芸員 / 古の甕【愛知県 常滑市】
実用の道具として、甕(かめ)が盛んに使われるようになったのは平安時代。
当時、愛知県の知多半島には2000〜3000の窯があり、常滑は甕の1大産地でした。
紹介されていたのは 愛知県常滑市 の とこなめ陶の森 資料館(とこなめとうのもり しりょうかん)。解説してくれたのは学芸員の 小栗康寛(おぐり やすひろ)さん。
平安時代末期に作られた甕「自然釉猫描文大甕(しぜんゆうねこかぎもんおおかめ)」の表面には猫が引っ掻いた跡のような線が刻まれています。
この線の模様は甕を作る際にできたヒビを取り繕うために入れたものと考えられています。
鎌倉時代の甕「自然釉折端大甕(しぜんゆうおりはしおおかめ)」。
表面を彩るのは薪の灰が溶けて釉薬のように見える 自然釉(しぜんゆう)です。
火の温度が1番高いところは薪をくべる辺り。
そこにわざわざ良い甕を置いておくと薪の灰が溶けて釉薬のように見える自然釉が施されるのです。
無骨な雰囲気、同じものが2つないような自然の景色美みたいなものがこの甕の良さだと小栗さん。
時を経ても変わらずに求められる形があります。
甕は壺に対して口のサイズが大きいいもの。使い方は貯蔵。例えば水や穀物を入れる、などいろんな使い方がされていました。
常滑の甕は北は東北地方、南は九州まで運ばれていたこともわかっていて、いかに甕を軽くして全国へ運ぶかということも大事だったのではと考えられています。
底がしぼまった形にも理由があります。
甕は基本的に埋めて使う道具。口縁(こうえん)の下のちょうど膨らんでくる辺りまで埋めて使います。
液体を入れても大丈夫。重たい穀物とかそういったものを入れても壊れない。
藍染めみたいなもので100年使ってもずっと割れずに使い続けることができる。
縁の下の力持ちというか、皆さんの普段の暮らしを支えるためにある道具なのかな、と小栗さんは語っていました。
名前 | とこなめ陶の森 資料館(とこなめとうのもり しりょうかん) |
住所 | 愛知県常滑市瀬木町4-203 |
電話 | 0569-34-5290 |
WEB | https://www.tokoname-tounomori.jp/ |
営業時間 | 火〜日:9:00〜17:00 |
定休日 | 月曜、年末年始 |
富田真行さん / 富田酒造場 / 黒糖焼酎の甕【鹿児島県 奄美大島】
鹿児島県奄美大島(あまみおおしま)の 富田酒造場(とみたしゅぞうじょう)では昭和26年(1951年)の創業以来73年変わらず黒糖焼酎を蔵の大甕で仕込んでいます。
現在の杜氏は 2代目の 富田恭弘(とみた やすひろ)さんと3代目の 富田真行(とみた まさゆき)さん。一次発酵・二次発酵ともに甕仕込みする伝統の製法を受け継いでいます。美の壺 File551「奄美大島」の回にも出演されていました。
発酵の温度を一定に保つため、32個の甕が地中に埋められています。
甕一つ一つに蔵付き酵母、土着の菌みたいなものが潜んでいて、たくさんアルコールを作ってくれる甕もあれば、香りが強い甕もあり、個性があるのだとか。そういう個性が最終的に1つにまとまって味の奥行きや複雑味につながっていると富田さんは考えています。
昔からずっと受け継いできたこの甕を大事に使っていきたい。
この甕があるからこそうちの味になるという最大の長所だと思って使い続けていきたいと語っていました。
甕は人々の暮らしを潤す縁の下の力持ちです。
富田酒造場の銘柄は「龍宮」「まーらん舟」「かめ仕込」「らんかん」など。
1名1,000円(試飲込)で約1時間の見学ができます。要事前予約です。
名前 | 富田酒造場(とみたしゅぞうじょう) |
住所 | 鹿児島県奄美市名瀬入舟町7-8 |
電話 | 0997-52-0043 |
WEB | https://www.kokuto-ryugu.co.jp/ |
営業時間 | 月〜土:9:00〜17:00 |
定休日 | 日曜 |
富田酒造場の黒糖焼酎。
吉川正道さん / 美術陶芸家 / 常滑伝統の甕作りの手法【愛知県 常滑市】
美術陶芸家 吉川正道(よしかわ まさみち)さんは日本の現代陶芸界を代表する1人。デザイナーとして出発し、常滑で作陶家としての経験を積みました。常滑では珍しい青白磁の作品を制作しています。
2005年に制作した中部国際空港エントランスロビーの陶壁と球体作品はご存知の方も多いのではないでしょうか。
代表作「雫 Shizuku」。
北極や南極のクレバスを彷仏とさせるみずみずしさ。
常滑の土を使わず 天草陶石(あまくさとうせき)を用いる一方で、常滑伝統の甕作りの手法を生かしています。
吉川さんを突き動かした 常滑の甕 はおよそ900年前の平安時代末期に作られました。
土の使い込み、技術力、処理、手さばきが達人だと唸ります。
数をたくさん作っているからこそ動いてくる指の動き、体の使い方が伝わってくるといいます。
思い切りが良く、気持ちのリズムみたいなものも感じられます。
古くからの技法を写すことは、先人の能力をもらうことだと吉川さん。
磁器で作る吉川さんの甕。ヨリコと呼ばれる直径約10cmの太い粘土紐を積み上げて成形する ヨリコ造り の技法です。
底は積み上げる土の重みに耐えられるよう分厚くします。
昔ながらのヨリコ造りで大甕を作ることができる人はごく僅かになりました。
吉川正道さん制作「白い TOKONAME」
生活必需品だった道具・甕に吉川さんは美を追求しています。
大げさに言えば美術文化としての1つのプレゼンテーション。甕が1つの美術的な価値を持って存在し続けるという願いを込めています。
常滑の手技と美意識が織り成す究極の用の美です。
美の壺 三、生命:魂の宿る場所
最後のツボは 生命:魂の宿る場所。
朝日敏興さん / 大甕神社(おおみかじんじゃ)宮司 / 霊力が宿る甕【茨城県 日立市】
2000年以上の歴史を持ち、不思議な神話が伝わる神社・大甕神社(おおみかじんじゃ)。
急峻な岩山を次から次へ参拝客が登っていきます。
この岩山には星の神様・甕星香々背男(みかぼしかがせお)が閉じ込められていると考えられてきました。
甕星香々背男(みかぼしかがせお)が宿る磐座(いわくら)は 大甕(おおみか)と呼ばれてきました。
解説してくれたのは宮司の 朝日敏興 さん。
大きい甕と書いて大甕(おおみか)。霊力が宿るという意味においては甕に通ずるものがあるといいます。
甕は古来穀物を貯蔵する容器として使われてきました。
その穀物が自然に発酵してお酒が醸されていた。それをいただいたところ、えもいわれぬ恍惚状態に落ちたということで、この甕には霊力が宿っているんじゃないかと古代の人は素朴に考えたのです。
甕に霊力を見る理由は、他にも。女性の体、子宮に例えたのです。
甕という字は甕(もたい=母体)とも読みます。
甕を女性の体に例えることもあり、女性の体には新しい生命が宿り、生まれきます。
甕も同様に神秘的なものとして捉えられ、甕には復活や再生すると黄泉がえりの霊力があると考えられました。
大甕神社の岩山も霊力の宿る霊験あらたかな磐座(いわくら)だということです。
名前 | 大甕神社(おおみかじんじゃ) |
住所 | 茨城県日立市大みか町6-16-1 |
電話 | 0294-52-2047 |
WEB | http://www.omikajinja.net/ |
営業時間 | 9:00〜17:00 |
定休日 | なし |
上江洲史朗さん / 茂生窯 陶工 / 厨子甕(ずしがめ)【沖縄県 中頭郡 読谷村】
沖縄県中頭郡読谷村(よみたんそん)の 茂生窯(しげおがま)2代目陶工 上江洲史朗(うえず しろう)さん。
父は名陶・上江洲茂生(うえず しげお)さん。2019年に茂生さんが逝去し、史朗さんが2代目を継承しました。
上江洲史朗さんは2023年に県内最大の総合美術・工芸公募展「沖展」で沖展賞を受賞し、大変評価の高い陶工です。
上江洲さんは今では作る人は数少なくなった 厨子甕(ずしがめ ジーシーガーミー)と呼ばれる亡き人のお骨を入れる甕を作っています。
厨子甕は沖縄独特の大きな墓・亀甲墓(かめこうばか)の墓室(ぼしつ)に納められます。
首里城を思わせる御殿のような見た目は沖縄伝統の形
民藝運動を唱えた柳宗悦(やなぎ むねよし)も沖縄を訪れる度に厨子甕を収集しました。
「死者を弔う」という純粋な目的のために作られた甕に強く惹かれたといいます。
現代では厨子甕の用途も多様になっています。
上江洲さんが作る小さな厨子甕は、大切な品を入れる器として沖縄県外から求める人も多いのだとか。
上江洲さんに厨子甕作りを見せてもらいました。
まずは籾殻と2種類の土を混ぜて足で踏みならして陶土づくり。
そして型を用いて四隅から土を入れ外枠を作り、蓮や花や神様などの装飾を施します。
蓋となる屋根も乾かしながら徐々に積み上げるため手間と時間を要します。
釣竿の筒を加工した道具で形作るのは屋根瓦。屋根の上のしゃちほこは死後も守ってくれる番人です。
ほぼ形が出来上がるといつも行う儀式のような作業。
割れるのを防ぐため、魂がいつでもどこにでも遊びに行けるようにという思を込めて小さな穴を開けるのです。
2年ぶりの窯焚き。
琉球松の薪をくべ、自身の経験と勘を頼りにおよそ1300度まで温度を上げていきます。
途中、熱中症で倒れたという上江洲さん。本当に大変な作業です。
ジーシーガーミー(厨子甕)は沖縄の大切な文化。何とか残していきたい、と語る上江洲さん。
炎の神様と対する三日三晩。またひとつ厨子甕が生まれました。
沖縄の人たちが大切にしてきた甕、厨子甕は亡き人と今を生きる人をつなぐ命の器です。
名前 | 茂生窯(しげおがま) |
住所 | 沖縄県中頭郡読谷村座喜味2898-1 |
上江洲史朗さんは日常使いの器も制作されています。
エピローグ
甕(かめ)からなぜかおばあちゃんの声が?
声に従ってぬか漬けをつけたら美味しくできあがりました。次は梅干し?
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音楽 BGM
ジャズの名曲が流れる美の壺。番組BGMファンもいらっしゃるのではないでしょうか。
オープニング曲と番組内挿入曲をまとめましたので参考にどうぞ。リンク先で試聴できます。
オープニングテーマ
オープニングテーマ は Art Blakey And The Messengers(アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ)の名曲「Moanin’」。ジャズドラマー アート・ブレイキーが1958年に発表した同名のアルバムに収録されています。作曲はピアニストの Bobby Timmons(ボビー・ティモンズ)。
番組内 楽曲
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