NHK「美の壺(びのつぼ)」は普段使いの器から家具、着物、料理、建築に至るまで、衣食住、人の暮らしを彩ってきた美のアイテムを解説してくれる番組。紹介されたものは何?場所はどこ?出演は誰?どこで買える?と興味津々。
そんな気になる「美の壺・美術の鑑賞マニュアル」を詳しく調べてみました。最後に番組内の音楽もまとめてあります。
美の壺「スペシャル 家具」
出演は俳優の 草刈正雄(くさかり まさお)さん、ナレーション(語り)は俳優の 木村多江(きむら たえ)さん、ゲストは さすらいの指物師(さしものし)棚川一二三(たながわ ひふみ)役で登場した 遠藤憲一(えんどう けんいち)さんです。
最新エピソード 美の壺 File 609「出雲」 もどうぞ併せてご覧下さい。
BSプレミアム(2023年11月30日まで。2023年12月1日から NHK BS(BS101チャンネル) へ移動)
初回放送:2023年4月26日(水)19:30~21:00
再放送 :2023年5月3日(水)08:00~
BS4K(2023年12月1日から BSプレミアム4K へ名称変更)
初回放送:2023年3月11日(土)19:30~21:00
再放送 :2023年4月26日(水)19:30~、2023年5月1日(月)14:00~
2023年5月3日(水)08:00~
でNHKの動画配信サービス NHKオンデマンド を視聴可能。 U-NEXTらんまん・
なつぞら などの朝ドラや
光る君へ・
鎌倉殿の13人・
真田丸 などの大河ドラマ、
探偵ロマンス・
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美の壺 スペシャル レトロ建築 はこちらをどうぞ!
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美の壺 2024年度(2024年4月〜2025年3月)バックナンバー はこちらをどうぞ!
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美の壺 スペシャル 家具 内容
▽今回の美の壺スペシャルは「家具」がテーマ
▽世界の名品から日本伝統の家具まで
▽若い世代に大人気!釘を使わない丸ちゃぶ台は“用の美”の結晶
▽民芸家具の職人技が作り出す心地よさの秘密とは?経験が削り出す極上の座り心地
▽歌舞伎俳優、中村隼人さんの鏡台に秘められた伝統への思い
▽雪国の気候が生み出す「たんすの女王」
▽祖母の思い出の家具の修理に密着。家具が織りなす日本の生活を切り取ります。お楽しみに!
プロローグ
美の壺 一、暮らす:共に暮らす
ひとつめのツボは 暮らす:共に暮らす。
塩見奈々江さん / アンティークス・バガット 主宰 / 古民家とアンティーク家具【栃木県 足利市】
栃木県足利市、明治35年に建てられた築121年の古民家に住むのは antiques BAGATTO(アンティークス・バガット)主宰の 塩見奈々江(しおみ ななえ)さん。
塩見さんは1983年東京都生まれ。幼少期をヨーロッパで過ごし、大学進学を機に18歳から10年間イタリアに在住。ヨーロッパの人たちが古い家に住む姿に憧れ、日本で同じようにできないかと8年前に夫の塩見和彦(しおみ かずひこ)さんとともに東京から引っ越しました。現在は東京と足利の二拠点で活動しています。
NHK「世界はほしいモノにあふれてる」でも紹介された素敵な古民家の暮らし。雑誌でも度々紹介されています。
玄関を入ると広い土間。
土間から続く和室の続き間には、塩見さんがコツコツと集めたお気に入りのアンティーク家具が置かれています。
和室に置かれていたのは 韓国のバンダジ(半閉櫃)。
テーブルクロスや毛布などの布をたくさんを収納しています。
割と素朴なものを好むという塩見さんは家具の年代や国を問わずに気に入ったものを使っています。こぱっと見てどこ国のものなのかよくわからないものの方が好きだといいます。
和室には 日本の古い茶箪笥(ちゃだんす)も。家具自体が主張しないものを選ぶことで、全体が調和するといいます。
そして鏡台のように見えるのは古民家に残されていた 箪笥(たんす)と イギリスの古い鏡 を合わせたもの。異国の家具同士がまるで初めからセットであったかのように組み合わされています。
土間の薪ストーブの前は イギリスの1860年代のウィンザーチェア。
この空間にくつろげる椅子が欲しいと頭の中のイメージを膨らませ、それにぴったり当てはまるものがイギリスで見つかったため購入して持ち帰りました。
家具選びで塩見さんが最もこだわるのは空間に合わせること。
家具だけを切り取るのではなく、家と一緒にその空間作りの一部としてコーディネートする。日常に必要なものの中で暮らしていくということはすごくほっとすると語っていました。
名前 | antiques BAGATTO(アンティークス バガット) |
住所 | 東京都世田谷区北沢 栃木県足利市名草上町 |
WEB | https://www.bagatto.jp/ |
塩見奈々江さんの古民家での暮らしが10ページにわたり紹介されています。
着物好きな塩見奈々江さんが表紙に登場。
山本明弘さん / アンティーク山本商店 店主 / 古い日本家具の専門店【東京 世田谷区】
東京世田谷区 の アンティーク山本商店(アンティーク やまもとしょうてん)は古い日本の家具の専門店。創業78年、3代目店主は 山本明宏(やまもと あきひろ)さん。
店内には江戸時代後期から明治、大正、昭和のはじめ、昭和30年代位までの家具が2500点ほど。
古い日本家具の魅力は長く使えるということ、一見シンプルなデザインなのに存在感があり飽きが来ないこと。
デザイン性と材料や作りの良さをすごく感じるといいます。
紹介されていたのは 昭和30年代に作られた 本箱。
何とも言えない色合い味わい。材料はナラ材で、側面まですべて1枚板で作られているため構造がしっかりしています。
棚板も大変丈夫。食器棚、自分のコレクションの収納、衣類を畳んで入れたりと本以外にもいろいろな用途にできます。
作りがしっかりしているだけではなくシンプルな中にも職人の遊び心が随所にちりばめられています。
扉の縁は木目の向きを変え単調にならないよう工夫。取手をつける場所には線を入れることでデザイン性を高めています。
店の1番人気は昭和30年代に作られた 丸ちゃぶ台(まるちゃぶだい)です。
1番の特徴は折りたためること。狭い日本の部屋に合わせた工夫です。
折り畳める脚の部分は額縁(がくぶち)や羽板(はねいた)などの部材と組み立てた状態で天板に付けます。これはとても技術のいる仕事なのだとか。
釘を使わず、なるべくコンパクトにという発想のもとに作られた構造です。
脚を支える棒は形を少し変え、デザイン性も追求。天板の縁には溝を彫り、お茶をこぼしても床に垂れないよう機能性も考えられています。
時間がゆっくりした時代、ひとつの ちゃぶ台を丹精込めて作った昔の職人たち。
何気ない日常をより便利に、少しでも豊かにしようという職人の思いが込められています。
名前 | アンティーク山本商店(アンティーク やまもとしょうてん) |
住所 | 東京都世田谷区北沢5-6-3 |
電話 | 03-3468-0853 |
WEB | https://www.antique-yamamoto.co.jp/ |
営業時間 | 火〜日:11:00〜19:00 |
定休日 | 月曜 |
岩崎杏さん / お気に入りの丸ちゃぶ台
最近、丸ちゃぶ台(まるちゃぶだい)を購入したという 岩崎杏(いわさき あんず)さんのご自宅を訪ねました。
岩崎さんが購入したのは、ミニサイズの丸ちゃぶ台。
何か食べたり本を読んだりする台が欲しと探しましたが、新しいものだと ときめかなかったのだとか。
古いちゃぶ台には今はない色の深みや誰かが使ってきた傷など新しいものには出せない深みがある、とお気に入り。
岩崎さんは古いものが好きで、アパートは築50年。最近ではアナログレコードにもはまっているといいます。聴くのは中森明菜さんや山口百恵さんなど昭和のアイドル。
古いからいいというのではなく、新鮮さを感じると岩崎さん。
購入した丸ちゃぶ台も単にノスタルジーだけではない魅力があります。
便利なのはたためるところ。気に入っているのはご飯を並べたときにちょうどいい大きさなところ。
お気に入りの家具と暮らすことで、心地良い空間が生まれ、心が豊かになるのです。
美の壺 二、すわる:すわって 触って 眺めて
ふたつめのツボは すわる:すわって 触って 眺めて。
織田憲嗣さん / 椅子研究家・家具デザイナー / 椅子の名品【北海道 上川郡 東川町】
北海道上川郡東川町(かみかわぐんひがしかわちょう)の 椅子研究家・家具デザイナー 織田憲嗣(おだ のりつぐ)さん。
東川町内のある倉庫に世界中から集めた名品と呼ばれる椅子が1,350脚も保管されています。
織田さんは20代から椅子の魅力にはまり、50年かけて集めました。
彫刻作品にも勝るとも劣らないような造形的な美しさ。
そして椅子は人間の体に最も近い道具。家具のデザインの中で椅子は最も難易度の高い家具。
小さな建築とも呼ばれる椅子。様々な体型や座り方に合わせながら強度を持たせ、なおかつデザインします。
使えるという実用性も備えていて、なおかつそこに置いておくだけで美しいという鑑賞の機能もある椅子。奥の深い世界です。
番組では織田さんお気に入りのデンマーク ミッドセンチュリーの椅子の名品を紹介していました。
Chieftain Chair(チーフテンチェア)デザイン:Finn Juhl(フィン・ユール)1949年
織田さんのお気に入りの1つ。デンマークを代表するデザイナー Finn Juhl(フィン・ユール)の手によって1949年に誕生した椅子 Chieftain Chair(チーフテンチェア)。
初めて写真で見たときに衝撃を受けたという名作椅子。堂々としていて威厳を感じます。
特徴は背もたれと後ろ脚を三角形にすることで、十分な強度を持たせていること。
肘掛けは独特のアーチで、デザイン性と手を置いたときの心地よさを追求しています。
広めの横幅と後ろに沈みこんだ座面と逆三角形の背もたれが威厳を醸し出しています。
1番のポイントは後ろ脚の耳の部分。ちょっとしたところですが1番大事なデザインだと織田さん。
座ると包まれるような かけ心地。単に機能性だけでは済まされない満足感が得られます。
![](https://hbb.afl.rakuten.co.jp/hgb/31e27c61.5f6c1d56.31e27c62.05a52a0e/?me_id=1216097&item_id=10004629&pc=https%3A%2F%2Fimage.rakuten.co.jp%2Fconnect%2Fcabinet%2Fpp_mobler%2Fpp503-oob-04r.jpg%3F_ex%3D400x400&s=400x400&t=pict)
PP-501 / The Chair(ザ・チェア)デザイン:Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)1949年
チーフテンチェアと同じ1949年にデンマークで誕生した PP-501。1960年アメリカ大統領選の討論会で、John F. Kennedy(ジョン・F・ケネディ)が座り「The Chair(ザ・チェア)=椅子の中の椅子」と呼んだことから世界中にその名が知られました。
背もたれから肘掛けにかけてねじれた曲線が体を優しく包んでくれます。
Propeller Folding Stool(プロペラスツール)デザイン:Jørgen Gammelgaard(ヨルゲン・ガメルゴー)1970年
デンマークのデザイナー Jørgen Gammelgaard(ヨルゲン・ガメルゴー)がデザインした Propeller Folding Stool(プロペラスツール)と呼ばれる折りたたみの椅子。
X字を作り出すプロペラのような形状がまるでオブジェのようです。
名前 | 織田憲嗣(おだ のりつぐ) |
住所 | 北海道上川郡東川町 |
WEB | https://odacollection.jp/ |
Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)の The Chair(ザ・チェア)。リプロダクトも出回っていますがこちらは正規品。
織田憲嗣さん / 椅子研究家・日本家具デザイナー / 椅子と暮らす家【北海道 上川郡 東川町】
織田憲嗣 さんは椅子付きが高じて、21年前に 椅子を中心とした家具のための家 をつくりました。
リビングルームには部屋のいたるところに50脚余りの椅子が置かれています。
お気に入りの椅子や家具をどう配置するかを決め部屋を設計したのだとか。
50脚以上もある椅子ですが、基本的にどの椅子にもその時の気分で腰をかけるし、どれほど貴重でどんな名品であろうとも必ず使うという織田さん。使わないと本当の良さはわからないと語ります。
織田さんのお気に入りの場所は長椅子。愛犬がいたころは先を争ってこの椅子に座ったという思い出もあります。脚の間に愛犬が座り、食後にうたた寝をするのが至福の時。
外の景色をゆっくりと眺めるために作られた部屋もあります。
椅子はそれぞれの時間、それぞれの場所で違う喜びを与えてくれる、と織田さん。
最も身近な存在で生きる目的を教えてくれた椅子。飽きた事はない、と語っていました。
織田憲嗣さんの自邸を家具のコレクションと共に紹介した本。
椅子の歴史 / 権力者と椅子
古来より椅子は 権力の象徴 でした。
古代エジプトの ツタンカーメンの玉座(ぎょくざ)。
正面には当時特別な存在だったライオンがかたどられ、黄金に輝く背もたれには王宮の部屋でくつろぐツタンカーメン王と王妃アンケセナーメンの姿が描かれています。
18世紀フランスの ルイ15世の玉座。
この頃になると曲線を対応したデザインが採用される一方で、すわり心地の良さも考慮されて椅子が作られるようになりました。
近代的な椅子のルーツとなったのがイギリスで18世紀に生まれた Windsor Chair(ウィンザーチェア)。
その機能性とデザインは日本を始め世界中に影響及ぼしました。
日本で本格的に椅子が作られるようになったのは、江戸時代末期から明治にかけて
外国から入ってきた洋家具を大工たちが見よう見まねで作り始めました。
池田素民さん / 松本民芸家具 常務取締役 / ウィンザーチェア【長野県 松本市】
松本城の城下町として栄えた 長野県松本 では、江戸時代から家具作りが行われていました。
大正末期には日本一の和家具の生産地となりましたが、第二次世界大戦後に衰退してしまいます。
転機をもたらしたのは 柳宗悦(やなぎ むねよし)による民藝運動。松本民芸家具(まつもとみんげいかぐ)の創始者 池田三四郎(いけだ さんしろう)が柳宗悦の講演を聞き感銘を受けたことから松本の家具作りの再興を目指しました。
戦後に職を失いバラバラとなっていた家具職人たちを集めて洋家具を製作。
その代表作が ウィンザーチェア。イギリス人の指導を受けながら、昭和28年に誕生しました。
現在でも当時の工法を守りながら作り続けられ、民藝運動の精神を今に受け継いでいます。
![](https://hbb.afl.rakuten.co.jp/hgb/31e2a9d3.97c26ce5.31e2a9d4.9f914364/?me_id=1397417&item_id=10000006&pc=https%3A%2F%2Fthumbnail.image.rakuten.co.jp%2F%400_mall%2Fgalleryorie%2Fcabinet%2Fleacharm85_01.jpg%3F_ex%3D400x400&s=400x400&t=pict)
松本民芸家具 の2代目社長は池田三四郎の息子の 池田満雄(いけだ みつお)さん。満雄さんの息子で常務取締役の 池田素民(いけだ もとたみ)さんが解説してくれました。
家具工房の製作工程を見せてもらいました。
職人さんが椅子の座面を丁寧に手で彫っていきます。
座面は1番お尻のところが深く、膝にかけてなだらかに立ち上がっていく。職人の手の感覚で作ります。
先輩が作った椅子を見て触って感覚で覚えるといいます。
手のひらに全神経を集中させ、経験と技術で作っていきます。
作業することおよそ1時間でお尻から膝にかけてなめらかな座面が完成しました。
そこには手仕事だからこその魅力がありました。
![](https://hbb.afl.rakuten.co.jp/hgb/31e2a9d3.97c26ce5.31e2a9d4.9f914364/?me_id=1397417&item_id=10000005&pc=https%3A%2F%2Fthumbnail.image.rakuten.co.jp%2F%400_mall%2Fgalleryorie%2Fcabinet%2Freachchair72_01.jpg%3F_ex%3D400x400&s=400x400&t=pict)
人が日常で使う椅子。触り心地に優しさがあるとか姿かたちに変化があるのが手仕事の魅力。
曲線のも人の手で微妙に変化をさせながら形を作っていくと、朝の光と夕方の光の中では違う姿に映ります。
時間が経ってくると使い込まれた感じも変わってきます。
その見え方の変化が飽きのこないものにつながっていくのだと池田さんは語ります。
ウィンザーチェア最大の特徴は 背もたれのアーチ。
材料の木を水に浸して柔らかくし、30分ほど蒸気で蒸して曲げやすくするのです。
曲げるのは職人2人がかりの手作業。曲げる形も全て職人の手作り。
手作業にこだわることで、日々の生活に座るだけでない豊かさを与えてくれます。
すわって触って眺めて喜びを与えてくれる。それが椅子なのです。
名前 | 松本民芸家具・中央民芸ショールーム |
住所 | 長野県松本市中央3-2-12 |
電話 | 0263-33-5760 |
WEB | http://matsumin.com/ |
営業時間 | 9:30〜18:00 |
定休日 | 年末年始 |
職人が手作りしている松本民芸家具。
美の壺 三、組む:木を組む 伝統を継ぐ
三つめのツボは 組む:木を組む 伝統を継ぐ。
中村隼人さん / 歌舞伎俳優 / 鏡台【東京都】
2代目 中村錦之助(なかむら きんのすけ)の長男で、歌舞伎俳優の 中村隼人(なかむら はやと)さん。
歌舞伎俳優にとってなくてはならないのが 化粧前(けしょうまえ)と呼ばれる 鏡台(きょうだい)です。中村さんにとって鏡台は特別な存在。仕事のスイッチを入れてもらえる場所。
中村隼人さんは7年前に自分の鏡台を新しくつくりました。
子役の頃は中村さんの祖父である 4代目 中村時蔵(なかむら ときぞう)さんから受け継いだ子供用の鏡台を使用していました。
歌舞伎役者は子役から大人の役をやるようになったタイミングで父親や祖父が使っていた鏡台を譲り受けることが多いそうですが、萬屋(よろづや)一門は人数が多く鏡台が全部行き渡ってしまっていて、1番末っ子の中村隼人さんは新調することになりました。
中村隼人さん愛用の鏡台 は大きな鏡、そして虎杢(とらもく)と呼ばれる木目が特徴です。
釘を一本も使わない指物(さしもの)と呼ばれる工法で作られています。
引き出しの取手に装飾されるのは、屋号・萬屋(よろづや)の家紋。この家紋が中村隼人さんの鏡台であることの証です。
材料はナラの木。大胆な木目もこだわりの1つです。使いやすいよう化粧で使うはけを吊るす場所も多めに。
鏡は何段階かに傾けることができ、最大限に倒すと立っても姿見として使えます。
中村隼人さん自らデザインを考え、職人と打ち合わせをし、およそ2年の歳月をかけ作り上げました。
この鏡台を製作するにあたり、中村さんにはある思いがありました。
参考にしたのは大叔父の 萬屋錦之介(よろづや きんのすけ)さんが若い頃に作った鏡台。60年位歴史がある鏡台はとてもかっこよくてずっと憧れていたもの。
父親が2代目として錦之助を襲名し、初代 錦之助さんの鏡台も受け継ぎました。中村隼人さんも襲名披露公演に出演した縁もあり、すごく親近感が沸いたそうです。
鏡台の形を参考にして、写真を撮って図面をひいてもらい、ここはこうして欲しいああしてほしいと引き直してもらって作りました。
中村隼人さんは鏡台が完成した時のことを昨日のように覚えていました。
最初は言葉が出なかったといいます。
喜びと感動と責任感と、さまざまな感情が湧いてきて「こういう鏡台を持ったからには、何とかひとかどの役者にならなきゃいけない」と決意を新たにしました。
歌舞伎は伝統芸能であり、伝承芸能。自分が尊敬して敬ってる先輩から、歌舞伎の演技の技や技術を教えてもらって伝えていく演劇。
そしてこういった鏡台もどんどん受け継がれていけいかなきゃいけないもの。和の心、日本人の心を感じるし大事にしていきたいという中村隼人さん。
萬屋錦之介さんの鏡台を見ていつか使ってみたいと思っていたように、誰かからこの鏡台はいつか使える役者になろうと思ってもらえる役者を目指したいと語っていました。
名前 | 中村隼人(なかむら はやと) |
WEB | http://nakamurakinnosuke.com/about/hayato/ |
渡辺光さん+渡辺久瑠美さん / 指物師 / 江戸指物【東京都 荒川区】
中村隼人 さんの鏡台を製作したのは 東京都荒川区 の 江戸指物(えどさしもの)の工房 渡辺和家具製造(わたなべ かぐせいぞう)。日本伝統工芸士の 指物師(さしものし)渡辺光(わたなべ ひかる)さん、娘で弟子の 渡辺久瑠美(わたなべ くるみ)さんが修行中。
渡辺さんが作るのは 江戸指物(えどさしもの)と呼ばれるもの。
釘を使わず 組手(くみて)と呼ばれる凹凸のほぞを組み合わせて作り、漆で仕上げられます。
江戸指物は木目を生かし、一見華奢に見えていて頑丈であるという江戸の粋を演出しています。
中村隼人さんの鏡台は座った時に使いやすい鏡と下の台とのバランス、そして木目の美しさを自然にアピールすることに苦労したそうです。
指物で最も大事である組手の作業を見せていただきました。
現在この作業を行うのは渡辺久瑠美さん。
ノミだけで凹凸を作っていく決して失敗が許されない作業。簡単なところが1つもない。1つ1つ完璧にやっていかないと完成しない難しい工程です。
家具が壊れるのは端から。指物の組手は端を狭く、中央を広く彫りしっかり仕上げます。
組手は「あり」と呼ばれるハの字の形になっていて外れないように組みます。
また材の両側を斜め45度にカットすることで、組み手を完全に隠してしまいます。
組手は隠され板同士の継ぎ目も角の一筋のみ。2枚の板の木目が合わさり、まるで1枚の板を折り曲げたいように見えるのです。
この年になってやっと仕事がわかって楽しくなってきたという渡辺光さん。
お客様から喜ばれるとまだまだファイトが湧いてくるのだとか。
伝統受け継ぎながらも、今を映し出し、未来へつなげることができるのも、家具の魅力の1つです。
名前 | 渡辺和家具製造(わたなべ かぐせいぞう) |
住所 | 東京都荒川区荒川3-26-1 |
電話 | 03-3801-8506 |
WEB | http://www.edosashi-hw.com/ |
営業時間 | 9:00〜18:00 |
定休日 | 日曜 |
こちらは伝統工芸士 根本一徳 作の市松小引出箱。
美の壺 四、しまう:感性を引き出す
四つめのツボは しまう:感性を引き出す。
齋藤令子さん / 桐たんす【福島県 大沼郡 三島町】
日本伝統の家具 箪笥(たんす)。中でも絹のような美しさを持ち、箪笥の女王と呼ばれるのが 桐たんす(きりたんす)です。
目が詰まった美しい木目。火災に強くカビや虫にも強いと言われています。
福島県 の奥会津只見川沿いにある 三島町 は日本有数の桐の産地として知られています。
50年前に結婚して三島町に来た 齋藤令子(さいとう れいこ)さんが所有する桐たんすを見せてくれました。
和室には着物を収めるための桐たんすがずらりと並んでいます。
1番古いのはお姑さんから譲られたタンス。昭和初期、およそ80年前の桐たんすを受け継いで現在でも使っています。
斉藤さんが自分で桐たんすを作ったのは三島町に越してきてから。せっかく三島にお嫁に来たので有名な三島の桐でと考えました。
かつては、町中に桐の木が植えられていたいと言う三島町。
桐は成長の早い樹。娘が生まれると、庭に桐の木を植え、嫁ぐ時にたんすにして持たせるという風習があったといいます。
矢澤倉一さん / 桐の木 専門員【福島県 大沼郡 三島町】
福島県会津地方で生産される桐は「会津桐」と呼ばれ、密度が高く高級品とされてきました。
しかし近年は生産量が減少。桐材復活を目指して町や県は技術継承に力を入れています。
福島県大沼郡三島町 では2017年に 桐専門員(きりせんもんいん)を創設。県職員だった 矢澤倉一(やざわ そういち)さんが町が管理する桐林の桐専門員になりました。
桐専門員は桐の生育を管理したり、苗木を育てたりする仕事。小中学校の森林教室なども行っています。
伐採は木の寿命まで40年から50年置いて置きます。雪が降るため一定の温度で凍害も少なく、よい桐ができるそうです。
名前 | 三島町観光ポータルサイト 会津桐 |
WEB | https://www.town.mishima.fukushima.jp/site/kankou/aizukiri.html |
廣瀬充良さん / 会津桐タンス【福島県 大沼郡 三島町】
福島県大沼郡三島町 にある 会津桐タンス株式会社(あいずきりたんす かぶしきがいしゃ)の 桐たんす の工房で工程を見せてもらいました。解説してくれたのは役員の 廣瀬充良(ひろせ みつよし)さん。
伐採された桐の木は3年から4年放置して 渋抜き(しぶぬき)という乾燥をします。
桐の渋み成分が抜けて色の変化を起こしにくくなるのだとか。
渋抜きをした木で、ある程度たんすを組み立てた後、鉋(カンナ)で削ります。
三島の桐の木の特徴はカンナをかけると絹のような光沢が出ること。
丁寧にカンナがけをするのですが、桐は木材がやわらかいためこまめに刃を研ぐ必要があります。
カンナをかけの作業が始まり数分もしないうちにカンナを交換。削られるのはテッシュ1枚ほどの薄さです。削ると美しい輝きが出てきました。
染料にとのこを混ぜたものを塗りロウで仕上げて完成。
木を植えてから半世紀の時間が費やされたんすの女王が誕生しました。
名前 | 会津桐タンス株式会社(あいずきりたんす かぶしきがいしゃ) |
住所 | 福島県大沼郡三島町名入諏訪ノ上394 |
電話 | 0241-52-3823 |
WEB | http://www.aizukiri.co.jp/ |
営業時間 | 月〜金:8:00〜17:00 |
定休日 | 土曜・日曜 |
八重樫榮吉さん / 金具職人 / 仙台たんす【宮城県 仙台市】
古くから日本では蓋のついた ながもち や つづら を使っていました。
呉服店ができて江戸時代中期に庶民が多くの衣類を持つようになり 箪笥(たんす)が普及しました。
たんすは次第に装飾が施され華やかさを楽しむようになりました。
![](https://hbb.afl.rakuten.co.jp/hgb/31e23576.5f1c14e8.31e23577.8d728da0/?me_id=1377958&item_id=10000387&pc=https%3A%2F%2Fimage.rakuten.co.jp%2Ff044067-rifu%2Fcabinet%2Fimg%2Fp%2F06_kyk-230101_01.jpg%3F_ex%3D400x400&s=400x400&t=pict)
宮城県仙台市 の 仙台たんす(せんだいたんす)は江戸時代末期に地場産業として誕生。
木材はケヤキと栗の木。指物で作られ表面に 漆(うるし)が塗られています。
仙台たんすの特徴は全体に散りばめられた たんす金具。1つのたんすに100の金具。この豪華な鉄の打ち出し金具は強と装飾を兼ね備えています。
八重樫仙台タンス金具工房(やえがしせんだいたんすかなぐこうぼう)の4代目 八重樫榮吉(やえがし えいきち)さんは数少ない手打ち金具職人。
モチーフは龍や唐獅子、牡丹や菊といった縁起の良い柄。1枚の鉄板を打ち出したんす金具を作ります。約1300種類もあるという たがね を駆使してさまざまな柄を生み出しています。
たがねも八重樫さんのオリジナル。鉛を溶かして作ります。
作業工程を見せてもらいました。
2週間をかけてリズミカルに凹凸をつけて1枚の柄を作ります。
龍を彫るときに1番難しいのは顔だと八重樫さん。自分が龍になっている気持ちで彫ることが大切
職人の感性の全てが引き出され たんすが完成します。
名前 | 八重樫仙台タンス金具工房(やえがしせんだいたんすかなぐこうぼう) |
住所 | 宮城県仙台市若林区下飯田字屋敷北164 |
電話 | 022-289-2491 |
WEB | https://www.sentabi.jp/souvenir/product07/ |
営業時間 | 不明 |
定休日 | 不定休 |
美の壺 五、思い出:家具に思いを乗せて
最後のツボは 思い出:家具に思いを乗せて。
今田景子さん / エンストル 社長 / 家具の修理【京都府 宇治市】
京都府宇治市、全国から壊れた家具が持ち込まれる工房 enstol(エンストル)。
6年前にオープン、社長は 今田景子(いまだ けいこ)さん。修理を中心にオリジナル家具の製作を行っています。
壊れた椅子の修理。全体的にぐらついていたので、一回ばらして組み直します。
取れてしまった棒だけを新しいパーツに取り替えます。
家具の修理は1つとして同じものがありません。状態も材料も千差万別です。
その家具を制作した職人の思いを汲み取りながら、客の要望に応えていきます。
きれいにして欲しいお客さんもいれば、現状残した状態で直して欲しいお客さんもいます。用途で技術ややり方も変わってくるためテクニックの使い分けが難しいところ。
元は革張りの椅子は明るくてシンプルな布に張り替えることでがらりと雰囲気が変わりました。
座面がボロボロになり、骨組みががたついていた椅子は以前の面影を残し生まれ変わりました。
結婚の時に買ったダイニングテーブルは生活様式の変化に合わせ、テーブル自体を小さく座卓形式にリニューアルしました。
家具の修理はただ直すだけではない共通点がある、と今田さん。
買った方が安い場合もあるし、機能的にも今の方が良いものもたくさんある。でも物を直すだけじゃなくて、何かしらその時の思い出も蘇るような、写真と同じようにメモリアルなものなのではと語っていました。
名前 | enstol(エンストル) |
住所 | 京都府宇治市槇島町月夜3-7 |
電話 | 0774-25-3490 |
WEB | https://enstol.co.jp/ |
営業時間 | 日〜木:10:00~17:00 |
定休日 | 金曜・土曜・祝日 |
住田菜都子さん / 祖母の思い出のキャビネット【京都府 長岡京市】
2022年12月、工房に修理依頼の 古いキャビネット が持ち込まれました。
依頼者は 京都府長岡京市 の 住田菜都子(すみだ なつこ)さん。他界してしまった祖母・田中雅子(たなか まさこ)さんの部屋にあった思い出のキャビネットを譲り受けたのです。
祖母の遺品を整理していたときに捨てられそうになった家具たち。それはあまりにも寂しくて悲しくて、祖母とずっと寄り添ってきた家具を修理して使うことを思い立ちました。
キャビネットの取手は欠け、引き出しも傾いてしまっています。さらには所々に木の剥がれや塗装のハゲ。
新品のようにするのではなく、芋の雰囲気を残して馴染ませるような修理をすることに。
1番の難問は欠けた引き出しの取手です。欠けた部分だけを切り取り木材で新しく作り直し塗装しました。
1ヵ月後、完成の知らせを受けた住田さんが工房に取りにやってきました。
とてもきれいに蘇ったキャビネットを見て大喜び。
祖母からもらった誕生日のお祝いやお年玉を使えずに封筒に入れたままずっと大切に取っておいた住田さん。そのお金をキャビネットの修理代金に充てることにしました。
家に持ち帰ったキャビネット。棚に飾るのは祖母との思い出の品々。祖母と過ごした時を思い出したりできたらなぁと語る住田さん。
家具に懐かしい思い出をしまい、今度はその家具が新しい未来を作ります
エピローグ
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音楽 BGM
ジャズの名曲が流れる美の壺。番組BGMファンもいらっしゃるのではないでしょうか。
オープニング曲と番組内挿入曲をまとめましたので参考にどうぞ。リンク先で試聴できます。
オープニングテーマ
オープニングテーマ は Art Blakey And The Messengers(アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ)の名曲「Moanin’」。ジャズドラマー アート・ブレイキーが1958年に発表した同名のアルバムに収録されています。作曲はピアニストの Bobby Timmons(ボビー・ティモンズ)。
番組内 楽曲
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